【導入】ルールが多いほど、安心だと思っていた
「ルールが多いほど、安心できる。」
かつての私は、そう信じていました。
「ルールがなければクラスは乱れる」「最初が肝心」──そんな言葉を胸に、
四月の初日からびっしりと掲示した“クラスの決まり”。
でも、ある年のこと。
私が「ルールで守っている」と思っていたクラスは、
実はそのルールにしばられて苦しんでいたのです。
「ルールを守らせる」ことが目的になった瞬間、子どもの主体性は失われる。
「先生、それってなんのためのルール?」
ある子のその一言に、胸がざわつきました。
ルールって、なんのためにあるんだろう?
先生が安心するため? 子どもが生きやすくなるため?
この記事では、
“ルールで管理する”から“ルールを育てる”へ。
その転換のヒントをお伝えします。
【筆者の背景】厳しさと優しさのはざまで
教員になりたての頃、私は「厳しくすることが正しい」と信じていました。
「ちゃんとさせなきゃ」「ダメなものはダメ」と、
毅然とした態度をとることが、良い教師の証だと。
ところがある年、厳しすぎるあまり、
子どもたちは私の目を見なくなりました。
発言も減り、笑顔も消えました。
一方で、翌年「優しさ重視」で臨んだときは──
一瞬クラスが明るく見えたけれど、
今度は「ルールがゆるくなりすぎて」学級が崩れた。
けーせんぱいうちは“厳しく”いく!甘やかしたら終わる!



でも、厳しさだけじゃ、信頼が育たない気がして…。
そんなふうに、私は長くこの“あいだ”で揺れていました。
一方で、翌年は「優しさ重視」で臨んだ結果、
一瞬明るくなったものの、今度はクラスがゆるみすぎて崩れました。
厳しすぎても崩れ、優しすぎても乱れる。学級経営の本質は“バランス”にある。
そんなとき出会った言葉が、私の転機でした。
「ルールとは、支配ではなく信頼を守る仕組みである。」
その言葉を受けたとき、
胸の奥で何かがスッと溶けていくような感覚がありました。
「あぁ、私は“守らせる側”に立ちすぎていたのかもしれない」
そう気づいた瞬間、目の前の景色が少し変わった気がしたんです。
ルールって、子どもをコントロールするための“武器”じゃない。
お互いが安心して過ごすための、“橋”なんですよね。
それからの私は、少しずつ姿勢を変えました。
「守らせる」よりも、「なぜ必要か」を一緒に考えるようになった。
子どもの意見を聞くようになった。
すると、ルールを“自分たちのもの”として語る子どもが増えていったのです。
ルールは、子どもを縛るものではなく、関係を守るための約束。
【本題】ルールづくりに悩む先生へ──3つの視点
① 「守らせる」から「意味を共有する」へ
ルールを“守らせよう”とすればするほど、
子どもたちは受け身になります。
「なんでこのルールがあるの?」と問われて、
「決まりだから」と答えていませんか?
ルールの本質は、“意味を共有すること”。
たとえば「廊下は走らない」。
「先生が怒るから」ではなく、
「みんなが安心して通れるように」という理由を共有した瞬間、
子どもの中に“自分ごと”が生まれます。



じゃあ、友だちが転びそうなときは声をかけようよ!



いいね。それも“安全のルール”の一部だね。
ルールづくりとは、“意味の共有”を通してクラスの価値観を育てる営み。
② ルールは「先生の安心」ではなく「子どもの安心」のために
正直に言います。
私はルールを増やすことで、自分を安心させていた時期がありました。
「混乱しないように全部ルールで決めておこう」──それは教師の“防衛反応”だったのかもしれません。
ルールが多いと安心するのは、先生側であることが多い。
でも、子どもにとっての安心は「守られている」ことではなく、
「信じられている」こと。



でも、自由にさせたら、荒れませんか?



最初は少しざわつくけど、“任せる経験”が信頼を育てます。
ルールを減らすことは“放任”ではない。信頼する勇気の表れ。
③ 守るためでなく「つながるため」のルール
ある年、私はクラスのルールをすべて消しました。
黒板に書いたのは、たった一行。
「みんなが気持ちよく過ごせるようにする。」
最初はざわついた子どもたちも、次第に自分たちなりのルールを生み出しました。
「話すときは相手の目を見る」
「片づけは次に使う人のために」
“つながり”を守るルールが、子どもの自律を育てる。



これ、みんなが気持ちよく過ごすために必要だよね。



うん、じゃあ次のルール会議で話そう!
ルールは“支配の道具”ではなく、“関係を整える言葉”である。
【実践編】私のクラスで行ったルールづくり3ステップ
ステップ① 教師が一方的に決めるのをやめた



🗨️ 私:「まずは、どんな教室だったら気持ちいい?」



「うるさくないけど、なんか楽しいのがいい!」
“ルールのない一日”を体験させると、子どもは自然と秩序の必要性に気づく。
ステップ② 子どもと「なぜ必要か」を話し合った
子どもが出したルール案に対して、必ず理由を聞く。
「なぜそれが必要なの?」と問うだけで、
「なるほど!」と思える納得感が生まれる。
教師の役割は、“決める人”ではなく、“意味を翻訳する人”。
ステップ③ 1か月後に“ルール見直し会議”を開いた
最初につくったルールは、完璧じゃなくていい。
むしろ「1か月後に見直す」という約束が大切。
💡ルールは“固定”ではなく“更新”していくもの。
この柔軟さが、子どもたちに「自分たちでクラスを育てている」という実感を与えます。
ルールを“変えられる経験”が、子どもの自己効力感を高める。
【まとめ】ルールは“支配”ではなく、“信頼”を守る仕組み
「ルールを守らせよう」として疲れたとき、
そのルールは誰の安心のためにあるのか、問い直してみてください。



ルールって、守らせるものじゃなくて、“一緒に育てる”ものなんですね。



そう。ルールづくりもまた、“学び”なんです。
ルールは、先生と子どもが“共に生きるための言葉”。
教室に“秩序”と“自由”が両立したとき、学級はもっと豊かになる。

