「小1の壁」を打破する画期的な試みか、それとも学校現場へのさらなる負担増か。一部の地域で始まった「始業前児童預かり」の試行が、教員の間で大きな議論を呼んでいます。
共働き世帯にとって、登校時間前の預かり先確保は死活問題です。しかし、その解決策を安易に「学校」というハコに求めてしまうことへの違和感を、私は拭い去ることができません。
外部人材活用という「建前」
現在試行されているモデル事業の多くは、以下のような仕組みをとっています。
- 実施時間:始業前の午前7時~8時頃
- 活動内容:自習(タブレット端末)や読書など
- 運営主体:シルバー人材センターなどの外部スタッフによる見守り
- 費用:補助金を活用した利用者無料化の促進
一見、外部人材が運営するため教員の手は煩わされないように見えます。しかし、現場の解像度でこの仕組みを見ると、深刻な矛盾が浮かび上がります。
管理職は「学校にいない」ことにはならない
最大の問題は、「児童が校内にいる以上、学校側の責任者が不在でいられるか」という点です。外部の見守り員が配置されているとはいえ、施設内で事故や不審者対応が発生した際、最終的な責任を問われるのは学校の管理職です。
午前7時から児童を預かるのであれば、校長や教頭はそれより前に出勤し、体制を整えておくことが「実質的な義務」となります。外部スタッフだけに鍵を預け、すべてを任せきりにできるほど、現代の学校管理は甘くありません。これは管理職にとって、さらなる「早出残業」の事実上の強制に他なりません。
奪われる「朝の聖域」という教材研究の時間
教員にとって、始業前の1時間は「最後の聖域」です。電話も鳴らず、児童もいない。この静寂があるからこそ、その日の授業のシミュレーションや、複雑な事務作業に集中できるのです。早出をしてでもこの時間を確保したい、という先生は少なくありません。
しかし、校内に児童がいるというだけで、校内の空気感は一変します。見守り員が対応しきれない事態への不安、何かあれば職員室に呼ばれるかもしれないという緊張感。これらは、教員が落ち着いて仕事をする権利を静かに侵食していきます。放課後の部活動が「夕方の託児機能」と化したように、朝の時間までもが福祉の肩代わりによって塗り潰されようとしています。
学校は「24時間営業の預かり所」ではない
「小1の壁」解消は社会全体の課題です。しかし、教員の多忙化が深刻な今、このような「学校への依存」を強化する施策は慎重であるべきです。
本来、福祉や地域サービスとして解決すべき問題を、利便性だけで学校に集約し続ける構造を断ち切らなければなりません。教育の質を守るためには、学校は「学びの場」であるという線引きを明確にし、教員が自律的に働ける環境を死守する必要があります。
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