「低学年には無理」を、疑ってみる
振り返りジャーナルは高学年向けの実践だと思われがちです。「低学年はまだ文が書けないから」と。
私は小学2年生の担任として、1年間毎日、振り返りジャーナルを続けました。結論から言うと、低学年が書けないのではなく、低学年に合わないテーマを出したときに書けなくなるのです。
「今日の振り返りを書きましょう」——この指示で書ける2年生は、ほとんどいません。1日は長く、出来事は多すぎて、どこを切り取ればいいか分からないからです。大人だって「今日はどうでしたか」と聞かれたら、「普通でした」と答えたくなります。
低学年のジャーナルは、テーマの出し方がすべてと言っていい。この記事では、1年間の実践から見えてきたテーマの「型」と、その型から作れる実例を紹介します。
書ける子が増えるテーマの3条件
条件1:場面がひとつに絞られている
「今日のこと」ではなく「音読劇の練習のこと」。範囲が狭いほど、低学年は書けます。時間で言えば、1日ではなく45分。できれば10分の場面まで絞ります。
条件2:気持ちの「変化」を聞いている
低学年の振り返りで一番よく育つのは、「〇〇だったけど、△△だった」という構文です。緊張したけど楽しかった。怖かったけどやってみた。気持ちがひとつではなかった経験を言葉にすることが、感情を扱う力の練習になります。だからテーマも「どんな気持ちが、どう変わった?」と、変化を聞く形にします。
条件3:正解がない
「係活動をがんばりましたか」と聞けば、全員が「がんばりました」と書きます。教師の期待に応える答えが見えているテーマは、振り返りではなくアンケートです。どう書いても正解になるテーマだけが、その子の本当の言葉を連れてきます。
実際に使っていたテーマから
・今月1番おいしかった給食は?
・すきな曲は?
・今月1番、苦戦したべんきょうは?
・今週たのしかったこと ベスト3
・休みの日の時間は、なにしている?
並べてみると、共通点が2つあります。
ひとつは、「1番」「ベスト3」と、選ばせる形になっていること。文章を書くのは難しくても、選ぶことは誰でもできます。そして選んだ瞬間、「どうしてかというと」が自然に続きます。低学年の「書けない」は、この型でかなり解けます。
もうひとつは、勉強の振り返りだけでなく、給食や休みの日といった、その子の生活に寄ったテーマが混ざっていること。ジャーナルは振り返りの練習であると同時に、教師がその子を知る窓にもなります。軽いテーマの日があるから、毎日が続きます。
場面別・テーマの例(型から作る)
行事・発表のあとに
・はっぴょうの まえと あと、きもちは かわった?
・れんしゅうの ときの じぶんに、ひとこと いうなら?
・いちばん ドキドキした しゅんかんは いつ?
ふだんの授業のあとに
・きょうの「はてな?」を ひとつ かこう
・となりの子の いいところを ひとつ みつけた?
・きょう、はじめて できたことは ある?
係活動・当番のことで
・じぶんの かかりの しごとで、たいへんなのは どこ?
・クラスの ために なったなあと おもうことは?
休み明け・学期の節目に
・1がっきの じぶんに てんすうを つけるなら なんてん? どうして?
・2がっきの じぶんに おねがいしたいことは?
ひらがなの多さに気づいた方もいると思います。テーマは黒板に書いて読み上げるので、その学年の子が自分で読める表記にすることも、実は大事な設計の一部です。
書けない子がいるのは、失敗ではない
どんなテーマを出しても、書けない子はいます。1行の子も、絵を描く子もいます。私はそれを直しませんでした。
ジャーナルの目的は、整った文章を書かせることではなく、自分の経験を自分の言葉にする習慣をつくることです。1行でも、その子が自分で選んだ1行なら成立しています。
私がしていたことは、ひとつだけです。一言の日でも、否定せずにコメントを返し続けること。こちらも一言でいい。その往復を続けていると、ふだん1行の子が、ある日急にびっしり書いてくることがあります。書きたいことができた日に、書ける場所と読んでくれる相手が用意されている——ジャーナルが「続いている」とは、そういう状態のことだと思います。
まとめ:テーマは「問いの練習台」である
低学年の振り返りジャーナルは、作文指導ではありません。「自分は今日、何を感じたのか」という問いを自分に向ける練習です。テーマは、その練習台にすぎません。
だから、うまく書かせようとしなくていい。場面を絞り、気持ちの変化を聞き、正解をなくす。この3つを守ったテーマを毎日ひとつ出し続ければ、子どもは少しずつ、自分の1日を自分の言葉で切り取るようになります。
あなたのクラスの子どもたちなら、最初のテーマに何を出しますか。
