「個別最適な学び」という言葉が学習指導要領に入って以来、現場の受け止めは割れています。一人ひとりに別の課題を用意するのか。タブレットで進度を分けるのか。そんな時間はどこにあるのか——。
私は、個別最適を「教材を人数分つくること」だと考えると、まず続かないと思っています。続くのは、同じ活動のなかに幅を持たせる形です。この記事では、実際にやってきた4つの形を書きます。
形1:同じテーマで、書く量と形式を問わない
いちばん手軽で、いちばん効きました。振り返りジャーナルです。
テーマは全員同じ。でも、書く量も形式も問いません。1行でもいい。絵でもいい。特別支援学級では、記号や○をつけるだけでも成立させていました。入口は全員同じで、出口の幅が広い。これが実務的にいちばん回る個別最適の形です。
大事なのは、量が少ない子を「足りない」と扱わないことです。一言しか書いていない日でも、否定せずに一言返す。それを続けていると、ふだん1行の子が、ある日急にびっしり書いてくることがあります。(→低学年でもできるジャーナルの工夫)
形2:選択肢を用意して、子どもが選ぶ
「自分で決める」経験は、それ自体が学びの個別化です。
私は係活動で、教師が分担を決めるのをやめ、「クラスのためにあったらいいな」という係を子どもたちに決めさせました。7つの係が自分たちで生まれ、勝手に回りはじめました。選ぶ余地があると、子どもは自分に合う場所を自分で見つけます。(→係活動が変わる3つの仕掛け)
ジャーナルのテーマでも同じで、「1番〇〇は?」「ベスト3」のように選ばせる型にすると、文章が苦手な子でも書き出せます。選んだ瞬間に「どうしてかというと」が自然に続くからです。
形3:情報を先に渡して、時間の使い方を委ねる
これは意外に見落とされます。個別最適とは、課題を分けることだけではありません。子どもが自分で計画を立てられる情報を渡すことも含まれます。
私は連絡帳に翌日の時間割を書き写す形をやめ、1週間分の予定をまとめて渡す「週予定」に切り替えました。「木曜に漢字テストがある」と月曜に知っていれば、いつ勉強するかを自分で決められます。前日に知らされた子には、構造的にできないことです。
能力の問題ではなく、情報の問題でした。渡した瞬間に、子どもは使い始めます。(→週予定に変えた話)
形4:ちょうど届く難易度に置く
心理学の実験で、輪投げのモチベーションが最も高くなるのは5回投げて3回成功する距離だと分かっています。簡単すぎても難しすぎても、やる気は落ちる。
学力差のある教室で全員に同じ難易度を出すと、この「5回中3回」から外れる子が必ず出ます。だから課題には、基本+発展のように幅を持たせる。個別最適とは、この幅の設計だと考えています。
やらなくていいこと:全員に別メニューを作る
最後に、正直な話を書きます。
一人ひとりに別の課題を毎時間用意するのは、担任1人では持続不可能です。私も試して、続きませんでした。続かない実践は、実践ではありません。
同じ活動のなかに幅を持たせる。選択肢を渡す。情報を先に渡す。難易度に幅をつける。この4つなら、明日から、追加の準備時間ゼロで始められます。個別最適は、教材の量ではなく設計の問題です。
おわりに
個別最適な学びを「一人ひとりに違うものを与えること」と読むと、現場は破綻します。「一人ひとりが自分で選べる余地をつくること」と読むと、今ある活動のままで実装できます。
まずは、いま毎日やっている活動を一つ選んで、そこに「選ぶ」場面を1か所つくってみてください。それが最初の一歩になります。
